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 そう切り出したのは、シンのほうだ。確かに、最初にいた部屋は人の姿で過ごすにはあまりにも簡素で、不便だった。俺は空いていた隣の実験棟の部屋を簡単に改装させた。ちょうど水場があった部屋の壁を抜き、1Kのアパート程度の広さに設備を整えたのだ。  部屋の壁に視線をめぐらせる。通常のアパートと異なるのは、前までいた部屋と同様に窓がひとつもないことだ。外部から動植物やウィルスが侵入するのを防ぐためだ、とシンには言っている。嘘ではないが、すべてではない。逃げる気はないというシンの言葉を俺は信じているが、蔦川はそうとは考えていなかった。  シンが仰向けに転がり、ぐっと身体を伸ばした。最近では俺がそばにいるときでも、そんなリラックスした仕草を見せるようになっている。白いシーツに溶け込むように、長めの銀髪が散らばっている。思わず手を伸ばしそうになるのをこらえた。今はやらなければならないことがある。 「シン、聞きたいことがあるんだが」  シンは返事をせずに俺を見た。嫌なら答えないだけ。表情がそう言っている。 「おまえがどこで生まれたのかを知りたいんだ。ここに来る前に居た場所から、どこか移動したことはあるか?」  シンは小首をかしげ、横に振った。 「ずっと同じ場所にいたのか? つまり、おまえの親はそこでおまえを生んだのか」 「たぶん」 「たぶん?」 「おれ以外は全員死んだって言ってたから」     
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