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 すん、と鼻を動かす。俺は指を持ち上げ、細い鼻先をなでた。驚きにびくりと顔をこわばらせたが、耳の後ろまで指を滑らせると、肩の力がふっと抜ける。小刻みに動かすと目を閉じ、心地よさに身をゆだねる。  シンはヒト形態でいるときも、獣の仕草をするときが多い。そう気づき、オオカミとしての心理を考えながら根気強く接してきた。仕事以外の時間をシンと同じ部屋で過ごすようにしていたが、最初は何を話すわけではなかった。匂いと存在、動きに慣れてもらうことが重要だった。今では、彼の機嫌がよほど悪くなければ、髪や耳の後ろなど、限られた場所だけ軽く触れることを許してもらえている。  そうなると、事あるごとに触れたくなるのは俺のほうだった。獣化した状態でもなめらかな白銀の毛は、ヒト形態ではより繊細な手触りになる。きめの細かい頬の肌はしっとりと指に吸いついてくる。なにより、触れたときに漂う甘い匂いに、麻薬のような中毒性があった。  手を止めた俺をシンが怪訝な顔で見上げる。 「オオカミは――」  声を出そうとして、変に喉が渇いていることに気づいた。唾液を飲みこみ、話そうとしていたことを思い出す。 「オオカミ自体は、それほど珍しい存在ではない。俺の父親がオオカミのアルファだ。母親はイヌのオメガ。俺は父親の性質を強く受け継いだんだ。父親も俺も、身体の一部を獣化できる」     
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