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眉根を寄せて天井をにらみつけるシンのこめかみに触れる。シンはちらと俺を見たが、また遠い部屋の隅へと視線を逸らした。
「とにかく、おまえが今こうして生きているのは奇跡に近い。だが、これを奇跡で終わらせたくないんだ。死んでしまった純血種と、おまえと、いったい何が違うのか。おまえの身体の秘密を明らかにすることで、これから助かる命があるかもしれない。だから、俺に協力してくれないか。これまでよりも本格的に試料とデータを取らせてもらいたい」
シンは眉間に皺をつくったまま目を閉じた。髪と同じ色の長い睫毛が頬に影を落とす。
「おれがサカキに協力する……そうしたらサカキは、おれに何をしてくれる?」
開かれたまぶたの隙間から、黄金の瞳が薄く光を放つ。
思わず言葉に詰まる。シンが取引めいたことを言い出すとは予想していなかった。
シンは聡明だ。実際よりも幼い言動が多いように見えるが、それは閉ざされた生育環境のせいだ。最初にヒト形態に戻らずにいたのは体力の温存のためだと思っていたが、今となっては違うとわかる。感覚器官を研ぎ澄まし、新しい環境と、俺たちをじっと観察していたのだ。ダディは、シンのそんなところが気に入っていたのだろうか。
「なにか願いがあるのか」
俺の言葉に、シンは素早く上半身を起こした。
「かなえてくれる?」
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