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 他にも細かい注意事項を並べ立てる。手と陰茎をよく洗うこと、射精時の最初の精液を極力取りこぼさないようにすること―― 「さ、サカキ」 「精子は精巣内にいる期間が長いほど運動量が低下してしまうから、前回射精したのがいつ頃かを教えてほしい。覚えているか?」 「サカキ!」  電子カルテから顔を上げる。シンは思い切り顔をしかめていた。苛立ちと――困惑? 「シン、これは本当に大切なことなんだ。おまえの子孫を確実に残すことができるように、今後定期的に精子を採取して保存する。その一部は試験にも使わせてもらうが、絶対に無駄な結果にはならないと約束する」  椅子に座り、ベッドの上のシンと目線の高さを合わせる。大きなクッションを抱え、顎をうずめるシンは、俺から逃げるように視線を逸らす。 「……精液は、わかるか? 恥ずかしいことではない、答えてくれ」  しばらくして、ちいさくうなずく。 「出し方も、わかるか?」  眉根を寄せてじっと黙っているが、首を横に振るわけではない。閉鎖空間で生まれ育ったシンが、知識としての性情報をもっていない可能性はあった。だが、考えたくもないが、「ダディ」がシンに性について何も教えていないとは思えない。 「焦ったり、急ぐ必要はない。俺は別の部屋に戻っているから、採取が終わったらボタンを押して呼んでくれ」         
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