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「俺みたいなベータには<つがい>というものすら理解できないんですけどね……その上<運命>なんてことがあるんですか?」    <運命のつがい>……アルファとオメガの絶対的な絆。その相手は出逢った瞬間にわかるとも、出逢う前から居場所すら予期することがあるとも言われている。一度出逢ってしまえば、決してその縁から逃れることはできない――などと、嘘のような言葉が並ぶ。都市伝説のようなものだ。 「言っただろう。そんなものは科学的に証明されていない。<つがい>は本来アルファがオメガの首筋を噛むことで双方のホルモン状態が安定した関係を指すだけで――」 「だぁから、仕組みはわかってますって。でもそうじゃないんでしょう? さっきだってそうだ。俺がそれに触ろうとしたときの榊さんの反応。シンが保護されたときから、ずっとそんな調子ですよ」  容器をちらりと見遣り、「それも悪化してる」とつぶやく。 「いいんですか? 蔦川さんは本気ですよ。保管されている純血種の凍結精子とシンの卵細胞で受精卵を作って免疫試験をしようとしています。他の雄との間にシンの子どもが生まれる。しかもそれを試験に使うんですよ?」 「……シンはまだ発情期が来ていない。だから卵細胞は採取できない」 「あの人がそんな些細なことで試験を先延ばしにするわけがないじゃないですか」     
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