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「だからといって誘発剤など――」  灰谷の視線が俺を刺した。 「まさか最初の発情期が来ていないオメガに誘発剤を使うというのか!? シンの身体にどんな負担がかかるかわからないんだぞ!」 「まだわからないですって。でも、蔦川さんならやりかねない」  身体の内側から怒りが吹き荒れる。こめかみが脈打ち、世界が白と黒で点滅し始める。榊さん、と二の腕に触れられてようやく、自分の意識が戻ってくる。 「榊さんが、シンのことで感情的になるのはなぜですか?」 「それは……俺がオオカミのアルファで、シンがオメガだからだ。俺はシンを守るべき存在で――」  シンの姿を初めて見たときの、身体の内側のすべてが揺さぶられるような感覚を思い出す。漂ってくる抗いがたい匂い。あれが<運命>というやつなのか? 「違う。<運命>なんてものじゃない」 「だから――」 「<運命>などという、誰かが勝手に決めたものじゃない。俺が、()()()()……シンを、必要としているんだ」  俺の名前を呼ぶ細い声。涙を流したあと、すがりつくように伸ばされた白い腕。薄い背中を撫でたときの安心しきった寝顔。     
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