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シンに俺が必要なのだと思っていた。だがそうではない。シンがいることで、俺自身が自分の存在の意味をはっきりと認めることができた。
「こんなこと言ったら怒られるかもしれないですけど」
灰谷が唐突に切り出した。
「榊さんも感情的になれるんだって、俺は少し安心しました」
「安心?」
「ええ……ここで仕事をしていると、感情を殺すのが当たり前になってくる。榊さんはそれが不自然なほど自然でした。完全に感情を消すことができる人なんて、いないのに」
寂しげな笑みを浮かべる。
「シンのこと、好きなんですよね?」
「……ああ」
消えていた頭上の照明が突然光を灯した。俺の中に芽生えたものが明るく照らし出されたような錯覚を起こす。それは心地の悪いものではなかった。
「灰谷」
「はい?」
「ありがとう」
灰谷は照れくさそうに笑った。
廊下の先が騒然となったのは、そのすぐあとのことだった。「榊さん!」と叫びながら、スタッフが焦ったように駆けてくる。
「純血種が保護されたとの連絡がきました」膝に手をつき、肩で息をしながら俺に向かって告げた。
「オオカミ族の男性、おそらくアルファです」
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