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 かつてこの世界で<人間>と呼ばれていたのは、男女の二性のみをもち、獣の形態をもたない生き物だった。一方、人間から獣へと変化可能な遺伝子をもつ<獣人>も存在し、彼らは男女に加えてアルファ、ベータ、オメガの三つの性の特徴を併せもっていた。  完全に棲み分けられていたはずの社会構造が崩れたのは、人間の側の極端な人口減少がきっかけだったと言われている。危機感を覚えた指導者たちは、同じ時期に下層で密かに生まれ始めていた<人間と獣人との間にできた子ども>に目をつけた。彼らは人間とは異なり、男女に関係なく子を成すことのできる性を持っていたのだ。  生殖機能の多様化だけでなく、獣人の子どもたちはそれぞれの種族の特長を備えていた。高い身体能力はもちろん、群れをなす種族からは統率力に優れた者が生まれ、その多くはアルファ性であることがわかった。  人間側が獣人との交配を早期に受け入れたのは、生まれた子どもが完全に獣化――身体の全てがその種族の祖である獣の形態に変化することがなかったからだろう。ごく稀に、身体の一部を獣化させることができる子どもが生まれることもあるが、一定の年齢までには獣化をコントロールすることができるようになるのが常だった。このような子どもはアルファか、またはオメガに多い。俺もそのうちの一人だ。     
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