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見つけた――
頭の中で誰かが歌うようにささやいた。
分厚いガラスの向こう側に横たわる痩せた身体の獣。なにか強い力が俺の意識を掴み、目の前の存在へと視線を引きこむ。
病的なほどに青白い光の下で、彼の純白の毛先が透けている。丁寧に整えてやれば、きっと滑らかなベルベットのような光沢が生まれるに違いない。だがそれは想像でしかなく、腹のあたりの毛は薄汚れ、ところどころに血がこびりついている。
血。
腹の内側から唐突にどろりとした冷たい感情が湧き上がってきた。狭く絞られていた視界が徐々に開けていく。
「おい、どうして口輪なんかつけているんだ」
隣に立つ灰谷がびくりと身体を震わせた。慎重に俺のようすを窺っているのが視界の端に見える。口輪だけではない。首輪に鎖まで繋がれている。
「……今は鎮静剤を打って眠っていますが、彼を保護したとき、あんまりにも暴れて手に負えなかったそうです。彼を飼っていたのはマフィアのドンで、検挙される際には相当な騒動になったって聞いていますよ。あ、だから身体に付いているのは彼の血じゃなくて――榊さん?」
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