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「おはよう。起きているだろう? 飯をもってきたから、好きな時に食べてくれ」  ごく薄く風味をつけて柔らかく煮込んだ肉と、水のボトルを手に部屋に入る。返事がないのはわかっていても、こうして声をかけ続けるようにしていた。  保護されて三日目になるが、彼はまだ獣化を解く気はないらしい。食事や排せつのときだけ身体を起こし、あとは部屋の隅に敷かれた毛布の上で、置物のようにじっとしている。これは合理的にも思えた。俺のような混血種であっても、獣化した状態のほうが傷の治りは早く、体力を温存しておける。保護と言いながらも、彼にとっては不自由で不慣れな環境だ。ストレスを感じているに違いない。身体を動かして気を紛らわせることができなければ、あとは眠ることしかできないだろう。  食事を置き、一度部屋を出て湯を張ったバケツを持ってくる。ゆらりと立ち上るおだやかな熱気に、彼はぴくりと反応した。 「身体を拭かないか。いつまでも血がついているのは気持ちが悪いだろう」  いつもならすぐに視線を逸らす彼が、俺の言葉にじっと耳を傾けている。     
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