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ドアを開けると、部屋の奥からちいさな鼻歌が聴こえてきた。聴いたことのないメロディーだ。俺が近づいていることに気づいているはずだが、鼻歌が止まる気配はない。
シンはベッドにうつぶせに寝そべり、大きな絵本を広げていた。薄い水色の寝間着を着ている。癖のない髪の隙間からはやわらかそうな耳、下衣からはふくらんだ尻尾が出ていて、どことなく退屈そうにゆらゆらと揺らしている。成熟した身体と、それを取り巻くモノとのアンバランスな状態は、何度目にしても胸の中にちいさな違和感を残していく。
「新しい部屋には慣れたか?」
絵本を閉じて俺を見上げる。「サカキが頼んでくれたの?」
俺はうなずき、ベッドの端に腰かけた。シーツは清潔で、スプリングがよく効いていて座り心地も悪くはない。
シンは一度ヒト形態になって以来、完全な獣化をしていない。時折今のように耳や尻尾だけを出すことがあるが、これは単に楽というだけのようだ。
「逃げたりなんかしないから、もっとマシな部屋にしてよ」
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