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苦痛と快楽の境界をさまよう、荒く尖った呼吸音が室内を満たしている。
「……う、あ……はぁっ――」
硬く閉じられたまぶたが痙攣した。目尻に滲む雫を舌で舐めとる。かえって震えは大きくなり、堪えきれなくなった瞳が光を求めて顔を出す。
「サカ、キ……」
「シン、大丈夫だ。力を抜いて」
*
シンはオメガとして、とうに最初の発情期を迎えていてもおかしくない年齢だ。だが、灰谷が最初に調べていたとおり、発情期にオメガが発するフェロモン――アルファの発情を誘発する匂いを出すとされる場所が、充分に発達していないというのは事実だった。そうなれば、卵細胞も排出されていない可能性が高い。
だが、生殖器の発達自体は問題がないのは確認されていた。そこでシンに万が一のことが起こったときのために、まず行うべきは「生殖細胞の保存」ということになった。つまり、精子の凍結保存だ。
「セイエキのサイシュ?」
シンは俺の言葉をそのまま繰り返した。
「ああ。ここにカップを置いておく。採取容器がついた人口膣も置いておくが、うまく採取できるならどちらでもいい。カップを使う場合は、カップの中に直接射精するように」
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