2

1/5
334人が本棚に入れています
本棚に追加
/60ページ

2

 背の高いコンクリート塀の隙間に据えられた、ちいさな門を通りぬける。今の季節なら満開の桜が来た者を賑やかに出迎えてくれる。緩やかにカーブした並木道は、一足早く散った花びらで薄く覆われていた。桜のトンネルの向こう側に、陽光を反射するガラス張りの建物が居丈高にたたずんでいる。  生命機能科学研究所はその名のとおり、国内で最先端かつ最大規模の生命科学研究を行う機関だ。他の国立研究所と同じく、人がひしめく都心からは離れた郊外にある。建屋は周囲と比べて低いつくりになっているが、広大な土地を横に広く使うことができるため、分野ごとに棟が分かれ、それぞれで実験棟も複数所有していた。  職員用の入口から入ると、棟と棟の間にある中庭を眺めながら居室へと向かうことになる。芝生の上に張り出したウッドデッキには丸テーブルが三つと椅子が置かれ、鯉が泳ぐ人工池まで添えられていた。殺伐となりがちな研究所の中の、ちいさなオアシスだ。天気の良い昼休みには、女性スタッフが弁当を持ち寄っておしゃべりに興じている。  エレベーターを降り、「形態進化研究室」と書かれたプレートを横目に廊下を直進する。     
/60ページ

最初のコメントを投稿しよう!