たとえそれが君にとってはただの一日でも

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勇気が怪我をして しばらく歩けない体になった 「やー部活で怪我しちゃってさー」 「バカだなぁー清水」 この空間は 優しくて 浅くて 日の当たる 綺麗な川みたいだ でも 俺たちの本当の心の中は カルキの水のように苦しくて ダメになっていく 俺の住む川は 体にまとわりつくような水で 落ちても落ちきれない 決して浮かぶことのない 苦しくて 悲しくて やっぱり優しくて 笑顔になりそうなのを抑えて 心配そうな顔をつくる 「大丈夫か?勇気」 「あー、大丈夫大丈夫。死ぬような怪我じゃねーし。それよりごめんなー」 観覧車の約束のこと? そう聞く前に 君は口を開いた 「暫くは野球の練習付き合えねーわ」 ごめん に続くのは いつも朝にやっている 野球の練習のことだった 「…お前は…忘れたのかよ…」 結構心にきた 楽しみにしてたのは俺だけだったらしい まぁそうだよな お前は濱ちゃんが好きなんだし 「泰成なんか言った?」 お前は相変わらず 屈託のない綺麗な笑顔で笑って聞くから つられて俺も 薄汚れた笑顔で答えるんだ 「なんでもねーよ」 嘘だらけの俺らの青春が どうか少しでも 美しかったと 感じられるようになれたらと 俺は観覧車に願うだろう 「…たった一日だけど…俺にとっては…一生の思い出になったんだ…」
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