マニキュア

3/6
前へ
/6ページ
次へ
合法的にリンの手に触れられるのは願ってもないことだ。 わたしはもにょもにょした違法的な思考を打ち切る。 短編集をわきにおいて、長机ごしにリンの手をとった。 柔らかいし、華奢だし、白いし。 「ツメ、よく見て、丁寧にしてね」 「うん、ええと……あっ」 わたしはいったん手をはなして、ツメ切りを準備した。 気がはやって、さきにリンの手をとってしまった。 違法行為が見抜かれていないか、顔をうかがう。 ……大丈夫そうだ。 「いくよ」 わたしはぱちんぱちんとリンのツメを切った。 やすりで多少磨く。 「これでいい?」 「うん、合格」 わたしはほっとした。 リンは小指をグーにしまって、薬指だけを立てた。 「わ、器用!」 生まれてこの方、そんなふうに薬指を動かせる子を見たことがない。 そう思わせる、なめらかな動きだった。 「こういうのって生まれつきなんだって」 「へえ」 わたしは自分の手で試してみたが、やはり薬指は上手く動かせない。 どうしても小指が一緒に動いていしまう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加