マニキュア

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わたしは手の方に視線を戻す。 リンは親指を立てていた。 フェイスブックのいいねボタンだ。 こちらから見ると逆さ。 というか、わたしの方を指してるけど。 「これで最後ね」 わたしは親指のツメに注目した。 そこにもマニキュアでなにか描かれていた。 漢字の『夕』に見える。 いや、ちょんちょんがついている。 カタカナの『ダ』に近い。 というよりカタカナの『ダ』そのものだ。 変わったマニキュアの図柄もあるもんだと思う。 「いくよ」 わたしはぱちんぱちんぱちんと爪を切った。 やすりをかける。 「完了!」 「うん、ありがと」 そう言ってリンは手を引っ込めた。 やれやれとわたしは思う。 短編集をとって開く。 しかし、変な図柄だったな。 たしか、小指から順番に、 『!』 『キ』みたいなの。 『又』のようなの。 『イ』っぽいの。 『ダ』 だったっけ。 ……ん? わたしは短編集をひたいにあてた。 顔がかくれる格好になったのが幸いした。 ダメだ。 やばい。 やばい。 にやけるな。 にやけるな。 にやけるな。 むりだ。 わたしはしばらく顔をあげられなかった。 短編集の表紙にいる芥川龍之介がわたしを守ってくた。 あの、なにか見抜いたような顔で。
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