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「どうした?一葉。」
一葉はSub用のClaim書類の前で頭を抱えていた。その様子を、Dom用の書類を書き終わったらしい紅司が、横から不思議そうに覗き込んでくる。
そして、なるほどな、と紅司は腑に落ちた様子で、一葉の頭をくしゃりと撫でた。
目の前の書類の、
‘セーフワード’
という欄だけが空白のままで残っている。
…そう、紅司とのプレイの際、一葉は大抵セーフワードを決めていなかった。なぜなら、commandで話せない状態になっていることが多かったからだ。
代わりに、紅司の肩を二回叩く、親指に噛み付く、など、その時のプレイで取りやすい行動を、紅司が事前に決めてくれていた。
…思い返してみる。紅司とのプレイでセーフワードを使った時はあったのか?あったとしたら、それはどんなワードだったのか。
そんな時、初めて紅司とプレイを行った時のことを思い出した。
‘Violet’
確か、彼はその言葉をセーフワードに使っていなかったか。
「紅司様」
楽しそうに一葉が悩む姿を観察している紅司に、ふと問いかける。
「なんだ?」
彼は物腰柔らかに微笑んで、そう返した。
「Violet、とはどういう意味ですか?初めてプレイをした時に使った、セーフワードです。」
「覚えていたのか。あれは、一葉の好きだった花の名前だ。」
「好きだった花…?」
花が好きだなんて、自分はそんなにロマンチストな男だっただろうか。
否、好きな花など、特に思い当たらない。一葉は額に手を当てて考えこんでしまう。
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