エピローグ

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「裏庭で、雑草すら生えていない隅に、一本だけ咲いていた紫色のスミレ。10年前のあの1週間、いつもそれに笑いかけていただろう。」 言われて、その頃を振り返ってみる。心身ともに疲れ果てていたためあまり記憶に残っていないが、 スミレ…、一輪…。 「…あれのことでしょうか。 一輪だけでいる姿が、どうにも孤独に映って、自分に重なって見えて…。」 枯れない程度に水をやったり、周りに少しだけ肥料を撒いたりしていた。 「あの時は一葉について思い当たるワードなど、そのくらいしか思い浮かばなかったから。」 「なるほど、スミレ…。」 一応、スマホで花言葉を調べてみる。 それぞれの色ごとに別の意味があるらしいが、全体としての花言葉は忠誠、愛など。紫は誠実、といった意味があるらしい。 一葉はためらいなくViolet、とセーフワードの欄に記入した。2人の間の関係をつなぐ言葉として、意味的にも申し分ない。 提出を終え、駐車場まで戻ろうとした。そのとき。 「…一葉?」 確かに自分の名を呼ぶ声を、紅司とは別方向から一葉は聞いた。
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