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「申し訳ありません、お怪我はございませんか?」 一葉は彼にすぐさま駆け寄り、形だけの気遣いを述べた。何年も名家に仕えてきただけあって、身につけた処世術は自分を守る盾になっていると思う。 「ああ、この通りなんともない。」 広げられた男の手から、ごとりと質量を持った石ころが落ちた。大きな手にはかすり傷ひとつ付いていない。 よかったです、では私はこれで… と、礼儀正しく頭を下げ、一葉は立ち去るつもりだった。 しかし。 その切れ長の瞳を見た瞬間、一葉はなにか今まで感じたことのない感覚に見舞われた。 そしてそれが何かを理解する前に、反射的に帰る場所とは逆方向へと駆け出していて。 嘘だ。そんな、馬鹿な。 認めてしまったら負けだ。今まで自分の中で積み上げてきたものが、崩れてしまう。 なのに。 彼に認められたい、尽くしたい、褒められたい、調教されたい、そして …支配されたい… 別に彼がglareを放っていたわけでもないのに、今まで内で身を潜めていた一葉のSub性が、洪水のように湧き出て止まらない。 怖い、と思った。 誰かを信用し屈することなど、したところできっと、裏切られるだけなのだから…。
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