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その夜。 「なんの相談もなしに突然決めて、すまなかったな。まあ、遠慮なく飲んでくれ。」 普段なにがあっても座ることのないふかふかのソファーの上で、見習い期間も含めると10年間も支えてきた主に頭を下げられて、 なんというか一葉はもう、どうにでもなれとため息をついた。もちろん心の中での話だが。 「いえ、旦那様の命であれば、従うのが私の務めですから。」 15の何もできない自分を見習いとして雇い、今も引き続き雇用してくれている当主には感謝している。 だから精一杯仕えてきたし、今回の件で辞めようとは思わない。 それでもでも頭を下げることくらい誰にでもできるし、良いワインを開けられたって赤は好みじゃない、とひねくれてしまう自分がいる。 どうせならストレス発散に可愛いSubでも調教したい。早く終わってくれと一葉は顔面に満面の笑みを貼り付けた。 「それで、本題なんだが… 」 ‘え、今のが本題じゃないの?’と、げんなりする気持ちを必死で隠し、笑みを保つ。 まだ先があるのか。まさか裏庭の草むしりも併せてよろしく、とか言われるのでは…などと考えを巡らせぞっとする。 「単刀直入に言うと、一葉には跡取り専属の執事になって欲しい。」 彼の言葉に一葉はん?と自分の中の記憶を探った。知る限りこの家には令嬢が3人いるだけだ。 「…僭越ながら申し上げますが、愛染の家に御子息はいらっしゃらないはずでは?」 当主は少し気まずそうに目を泳がせる。
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