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規則正しい靴音は、一葉の横で静止した。
「よろしく、一葉。」
低く美しい声が凛と響く。声の方を振り返れば、ふしばった大きな手が差し出されて。
「精一杯仕えさせていただきます。」
すっと立ち上がり、自分の手が下になるようにその手をすくい上げた。
安心させる温かさが一葉の手をやんわりと覆う。その温もりにどこか安心する自分がいた。
彼が明日から…いや、今から自分が仕えることとなる人。
緊張した面持ちで一葉はゆっくりと顔を上げる。
背が高いと思った。一葉の目線の高さでは、整った鼻筋までしか見えない。そのまま目線を上げていく。
…どくり、心臓が脈打った。
まずい。この場から早く逃げ出すべきだと本能が警報を鳴らしている。
立場上何も言わずに逃げ出すことはできないから、一葉はちらりと当主を見た。
「では、あとは2人でやってくれ。」
抵抗虚しく当主はそのままソファを立ち、足早にドアの方へと歩いていく。
「また会ったな、サッカー少年。」
ばたん、とドアの閉まる音がしたあと、目の前の男は形の良い唇を吊り上げ、一葉にそう言い放った。
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