短編集

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1:『箱とセシリア』 「困ったことになりやしたね…………」 小鳥の囀りが辺りで響く真昼時に迅雷の魔王・セシリア=アビス=ノックスは、今、最大の危機に直面していた。 闘技場で数多の伝説を残す、最強格闘家と謳われた彼女。 こんなに困ったのは、何時だっただろう。 風の元素王と戦ったとき? 否、世界を飲み込む異世界の魔神と戦ったとき? いやいや、それですら今の状況を考えたら軽かったとすら言える。 「いったい、何がどうして、こうなったんすかねぇ…………」 困ったことになったと独り言をひたすら、呟きながら空を見ていると、見知った足音が聞こえてきた。 猫っぽい耳がピクピクと動き、該当する足跡の主を見付ける。 「これは、アンドラスっすね?おーい、アンドラスの姉御ー!!」 セシリアの呼び声に反応して、アンドラスと呼ばれた彼女が寄ってきた。 アンドラス=オルガ=ノックス。 彼女の姉で、薬屋を営んでいる少し性格に難がある女性だ。 今日もまた、魔術的な意味合いがあるのだろうケバケバしい独特な柄をした緑とハートを模した服装で現れた。 「あらぁセシリア、こんなところでどうしたのぉ…………って、何してるのよ本当に????」 いつもの不適な笑みでなく、素直に引き顔になる。 そりゃそうだ、だってセシリアの今の姿は…… 「なにって、酔った勢いで箱に入ったら抜けなくなっただけっすよ」 「だけ、じゃないわよぉ…………」 今のセシリアの姿は、箱の上から頭と両腕が出ており、胸から腰までが箱に包まれ、腰から下が出てる状態。 流石に妹の、お世辞にも知的とは言えないその姿に呆れながらも対処法を話してみる。 「貴女の能力で破壊したらどぉ?」 「それは、もうやりやした」 「……雷化も?」 「全力でやりやしたよ?」 「ふぅん?」
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