第14話 祭りの後

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 参った、オリヴィエが離れない。腰にしがみついた両手は溶接でもされたかのように固く、全然解けなかった。その間にも子犬は走る。そして遂には、懸念した通り森の中へと駆け込んでしまった。  でも心配は無用だった。森の中ではグスタフが偶然にもトレーニング中だったらしく、上手いこと捕まえてくれたのだ。彼はグッタリとした子犬を僕に差し出しながら言った。 「何だか良くわからねえが、オレの顔を見た途端に固まっちまったぞ」  流石は武神との呼び声が高い男だ。まさかトレーニング時に放たれる闘気だけで、動物を怯えさせてしまうとは。大事にならずに済んで胸を撫で下ろした。  それからは割と面倒だった。まずグスタフに、腰にしがみ付いているオリヴィエについて説明した。嫌らしい目的で無いことを納得してもらうのに、そこそこやりあう事となった。そして依頼の報告時も揉めた。飼い主からすれば、なぜ一頭だけが怯えているか不審に感じられたのだろう。説明を強く求められたけども、さすがに逃がしかけた結果だとは言えず、言い繕うのには苦労させられた。  結局のところ役職(へんたい)に関係無く、働くとは大変な事なのだと知った。それでも思う。必要な苦労と、不必要な苦労に違いはあるのだと。生業で生まれた苦労は不思議と不快感を覚えず、むしろ達成感の方が大きく感じられたのだ。    
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