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「ちょっと品薄になっていてね。スライムの核と鉄トカゲの尾はイロをつけさせて貰ってるよ」
これは僕にとっても朗報だった。換金したら60ディナになるので、食料を十二分に調達できる。それどころか宿代を払っても余るほどなので、多目に払うことで安部屋なら泊めてもえるかもしれない。そう思うと、久しぶりに心持ちが良くなった。
先客がお金の受け渡しを終えると、今度は僕の番となる。すると、途端に店主の顔色が変わった。垂れ下がった目尻は吊り上がり、緩んだ口許は引き結ばれた。声も地を這いそうなほどに低く、とても歓迎する姿には見えなかった。
「何の用だ」
「あの、素材を買い取って欲しいんですけど……」
「素材だと? 出してみろ」
「ええと、カウンターに置けば良いですか?」
「他に何が見えるんだ。さっさとしろ、買い取ってやらんぞ!」
「は、はい! すみません!」
僕はポケットからありったけの核を取りだしてカウンターに置いた。コトリ、コトリと乾いた音が響いて、にわかに不吉さを臭わせる。それでもさっきは物不足と言っていた。これで空気が和らいでくれるかも……という淡い期待は、店主の鼻息で簡単に吹き飛ばされてしまう。
「ひとつ2ディナ。それ以上は出さん」
「ええ!? さっきは12ディナだったじゃないですか」
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