第4話 初めての歓迎

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 水気の無いパンを噛る。喉の通りの悪さを覚えつつ、今度は干し肉も少しずつ口に入れ、何度も何度も噛み締めた。大事な食料。それでも味なんか感じない。ただ体が求めるままにアゴを動かし続けた。  食べ終えた頃にはすっかり日は暮れていた。空は曇天模様で、月が雲に遮られて姿を見せない。窓から溢れる灯りだけが頼りだけど、それが今は浴びることすら辛く感じられた。夜光虫が光を避けるようにして、木箱の影にうずくまった。後はもう寝入るしか無い。  冷気を纏った地面は寝床に適さない。疲れきった体には一層堪えた。宿で一室借り受けたい。そう思っても、10ディナでは素泊まりですら断られてしまう。そこに自分の好感度を加味すれば、結果は考えるまでもない。 「……風邪をひいたら、いよいよお終いだなぁ」  夜半過ぎに風が強まった。二番底のような不遇に対して抗う術は無い。マントを広げて体を包み、じっと堪え忍ぶばかりだ。  そうやって懸命に堪える僕の耳に、小さな鳴き声が聞こえた。木箱の隙間からだ。 「ミャアーー」 「……野良猫?」 「ミィヤァーー」 「寒いよね。帰る場所が無いなら、こっちにおいでよ」  マントを少しだけ開け広げると、真っ黒な子猫は歩み寄ってきた。鼻を突きだして、しばらくの間僕の臭いを嗅ぐ。それからゆっくりと小さな体を潜り込ませた。2度目の人生で初めての歓迎ぶりに、思わず目頭が熱くなった。     
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