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凄く怖い。逃げようか、それとも何か話しかけるべきか迷っていると、彼女は僕の目の前で立ち止まった。緩やかに小首をかしげ、慈愛に満ちた笑みを投げ掛けた。そして静かに広げられた両腕は、まるで僕を受け入れると言いたげだ。
「ようこそ、不運な死に見舞われた者よ。私は貴方の住む世界を管理する者です。そちらの言葉を借りたなら、女神となるのでしょうか」
「えぇ……?」
この変わり様。どう受け止めれば良いのか分からない。女神を自称した衝撃も大きいけど、そんなものが霞んでしまうほどの豹変ぶりだった。そんな僕の困惑など無視して話は続く。
「貴方は若くして短い生涯を閉じました。その時の事を覚えておいでですか?」
「そういえば、雨の日に山道を歩いてて。崖の辺りで足を滑らせたような……」
「私は待ち望んでいました。あなたのような都合の良い……コホン。ええと、純潔なる魂を持つ青年が現れる日を」
「えっと、今、都合が良いって?」
「はいそこ食いつかないッ! 話の肝はそこじゃないの!」
「は、はい! すみません!」
話の肝を気にするなら、僕の肝の事も気にかけて欲しい所だ。でも涙目になってしまった事などには触れられず、話は着々と進められた。
「ええと、これより貴方の魂を地上へと戻し、再び甦らせて差し上げましょう」
「僕……生き返らせて貰えるのですか?」
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