第7話 試練と書いて

1/5
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ

第7話 試練と書いて

 小屋の中は不確かな空気で満ちている。あまり良い意味ではない。現状を表すのに一番しっくりくる言葉は『困惑』になるだろうか。  成り行きだけで誘拐犯から助けた僕と、思いがけず窮地を脱した少女。本来なら感謝の言葉が聞けるシチュエーションだ。それでも役職(のろい)が厚い壁となって立ちはだかり、気安い対話を難しくする。お互いに話しかける事なく、ただ子猫が「ミャアミャア」と戯れのを眺めるばかりだ。  それでも、居心地はこれまでに無いほど良い。自分の存在を許される事って、実はとても有り難いものだったんだ。少女と猫が睦まじくする様を見つつ、ボンヤリと思った。  安息が心に余裕を与えてくれたらしい。次第にむず痒いような気配が遠退いていくのが分かる。やがて少女は平静さを取り戻すと、僕に柔らかく微笑みかけながら言った。 「助けてくださってありがとうございます。それから、ミクちゃんのお世話も……」 「ミクちゃん?」 「猫の名前です。この子は私のペットで、ミクロと呼んでいます」 「そうなんだ。ミクロって、身体が小さいから?」 「いえ、黒猫だからです」 「それって……」     
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!