第9話 物は言いよう

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 オリヴィエの指差す方には、焦げ茶色の細長いツボミのようなものがあった。僕の地元には無かったもので、それが何を意味するのかが分からなかった。 「ええと、これがどうしたって言うの?」 「ご存知ありませんでしたか。これはポリトリの実というもので、大変栄養価の高い食料なのです。調理も不要で、そのまま召し上がる事ができますよ」 「本当に!? そんな便利なものがあったんだ……」 「巡礼者にとって無くてはならない必需品です。私も見習いの頃には大変お世話になったものでした」  オリヴィエは小さく祈りの言葉を捧げると、実をいくつか手に取った。片手に収まる程度の数だ。その実をつけた草は視界いっぱいに群生しているのにも関わらず、彼女は最低限度しか収穫しようとはしなかった。 「ねぇオリヴィエ。もっと採った方が良いよ。このバッグも空だから、たくさん持っていけるよ?」 「レインさん。それはなりません。この実は貧しい巡礼者はもちろん、戦争や災害に見舞われた人々の物でもあるのです。私たちが苦境にあるからといって、多くを採る事は許される事ではないのです」 「そういうものかなぁ……」 「ご心配なさらず。苦しい時を耐え凌げば、いずれ幸運を乗せた風が吹くものですよ」     
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