第9話 物は言いよう

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 とても羨ましい。この、誰に見せても恥ずかしくない内容が。それに引き換え自分のはどうか。役職(へんたい)はもちろんのこと、目ぼしい能力がひとつも無い。躊躇せずにカードを差し出した自分の迂闊さを呪いたくなる。横目でオリヴィエの顔を伺ってみると、彼女の顔は慈愛の表情に満ち満ちていた。それは予想だにしないほどに。 「ああ、なんという事でしょう。仰る通り『試練』の証が刻まれているではありませんか」  そういうと、僕の『変態の部分』を愛おしそうに撫でた。それがむず痒いというか、どこか不適切な行為のように思えて、急ぎカードを元に戻した。   それはともかく移動だ。街道沿いに北進し、ムシケの町を目指して歩き続けた。初日はほとんど魔物に襲われる事がなく順調だったが、それはあまり良い事ではない。その理由は財布の中を覗いたなら明らかであり、次の町に着くまでにある程度の稼ぎが必要なのだ。 「レインさん、野宿の準備が完了しましたよ。今日はもう休みをとりましょう」 「そうだね。暗がりで戦闘なんて、さすがに危険すぎるよね」  僕たちは道から少し外れた所で火を焚いた。ここで夜を明かす事に決まったからだ。交代で眠りにつき、もう片方は火守りの番をする。それで比較的安全に過ごせるのだとか。オリヴィエの実用的な知識には頭がさがる想いだ。 「僕が起きているから、君が先に寝て良いよ」 「そうですね、少し疲れましたので、お言葉に甘えさせていただきます」 「頃合いを見て起こすから、それまでゆっくり寝ると良いよ」     
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