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「……そこまで言うのなら、行きますよ」
ーー泉の反対側に小道があんじゃん? そこをちょっと歩けば最寄の町に着くよ。
「既に嫌な予感が激しいんですが」
ーーさぁさぁ、つべこべ言わず行ってみよッ!
妙に楽しげな声が腹立たしいけど、ひとまずは意見に従うことにした。いまは何をするにしても拠点が必要だからだ。唐突にサバイバルライフを始めるほどの逞しさも無謀さだって持ち合わせてはいない。
しばらく道を進むと、古びた木造家屋の立ち並ぶ田舎町にたどり着いた。そこは森と同様に見慣れない場所だった。それでも点在する風車と広大な麦畑がとても長閑で、眺めていると少しだけ緊張が解れてくる。防壁のない造りが解放感も与えてくれて、ふと故郷を思い出してしまった。
ーーえっと、入り口の所に若い子が居るね。話しかけてみたら?
「そうですね。この辺りの事を何も知らないから、簡単な地理情報だけでも欲しいかな」
ーー良いねぇやる気があって。じゃあ早速手を出してみよっか。
「変な言い方しないでくださいよ、まったく……」
女性の方に歩み寄ってみたものの、背を向けているからか僕の存在に気づいて貰えていない。変に驚かせたりすると悪いので、数歩ほど手前から声をかけてみた。
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