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第1話 よみがえり
真っ白。
一面が真っ白の空間に僕は居る。
人や建物は見当たらず、ちょっとした物音すら聞こえない孤独な空間だ。こんな不思議な場所へどうしてやって来たのか、その経緯については記憶が無い。
いや……誰も居ないとは言い過ぎた。本当はもう一人だけ傍にいる。
その人は艶やかで長い金色の髪を持つ女性だ。色白で手足も長く、思わず見とれそうになるほどに美しい。身なりも普通では無い。絹であつらえただろうロングドレス、装飾品の数々は金細工の眩さが輝いている。尋ねなくても高貴な人物であることが判るし、少なくとも僕のような平民とは別世界の住人のはずだ。
声がかけづらいな、と思う。それは身分の違いに恐縮しているのもあるけど、彼女の立ち振舞いも原因だった。
その人は本を地面に直接置いて読書をしていた。うつ伏せの姿勢のまま、片手には小振りなパンを持ち、鼻唄混じりにそれを噛る。そして空いた右手でページを繰り返すということを延々と繰り返しているのだ。
何て話しかけたら良いんだろう……。ともかく、このままボンヤリしていても仕方がない。なるべく下手に出て話に応じて貰う事にした。
「あの、すいません……」
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