第15話 心の傷跡

1/9
68人が本棚に入れています
本棚に追加
/175ページ

第15話 心の傷跡

 ムシケにやって来て既に10日が過ぎた。街の人たちとは相変わらず良好な関係を築けており、仕事も今のところ順調で途切れてはいない。だから財布もだいぶ暖かなものになっていた。 「ねぇオリヴィエ。そろそろ部屋をふたつ取らないかい?」  1日あたりたった2ディナを上乗せするだけで、別々の部屋に泊まることが出来る。何かと窮屈な相部屋暮らしに終止符を打てるのだ。だけどオリヴィエは僕の提案に乗らなかった。まさに即答。迷う素振りすら見せようとはしない。 「どうしてその様な事を……私に何か不快な言動がありましたか?」 「いや、そうじゃなくてね。お金に余裕があるから部屋を分けようっていう話なんだけど」 「今まで通り1部屋で十分です。不測の事態に備える為にも、無用な贅沢は止めておきましょう」 「これが贅沢に入るのかなぁ」 「不相応だと常日頃感じておりました。むしろ、一番安い部屋に移りたいくらいです」  今の部屋は2人用では最安値の部屋だ。それをオリヴィエが知らないはずはない。だから発言の意図が見えず、少しばかり考える時間を要した。 「もしかして、1人用の部屋に移れと言ったの?」     
/175ページ

最初のコメントを投稿しよう!