第16話 冷たい指

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第16話 冷たい指

 ムシケの町は普段よりも賑わっていた。それもそのはず、今日は光珠の祭りが催される日だ。往来は観光客と、稼ぎを見込んだ露店で埋め尽くされており、日は暮れたというのに寝静まる気配が微塵もなかった。大通り沿いに並べられたかがり火が、辺りを真昼のように照らす。もしかするとそれが眠りを遠ざけているのかもしれない。 「随分と大盛況だね。オリヴィエはこれまでに来た事あるのかい?」  返事が返って来ない。ついさっきまで真後ろにいたのに、いつの間にかはぐれてしまったようだ。人混みに目を凝らして視線を巡らせると、遠くにオリヴィエの姿を見つけた。何やら怪しげな店構えの露店でセールストークに聞き入っているようだ。 「店主さん。この瓶の液体は何ですか?」 「おやおや、若いのに目利きさんだねぇ。そいつぁライール湖畔に隠れ住む賢人の秘薬でねぇ。飲ませてみりゃアラ奇跡! どんな相手でも一発で恋仲になっちまうっつう代モンだ。その名も『妙薬イチコロリ』ってね」 「まぁ、本当ですか? おいくらでしょうか!」 「うーん。800ディナと言いたいところだけど、お嬢ちゃんは美人だから400で良いんだねぇ」 「とってもお得ですね、買います」     
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