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第6話 シスター・オリヴィエ
僕は身の安全を確認してからも、森の中をひたすら歩き続けた。目星や目的があってではない。やり場のない怒りや捨て鉢な気持ちが僕を急き立て、足を止められないだけだ。
「何だっていうんだよ、チクショウ……!」
湿り気を帯びた言葉が自然と溢れる。見苦しい姿だろうけど口を閉じる気にはならない。それよりも今はただ、町から遠ざかる事を優先させたかった。
ーー殺せ、今すぐに殺せ!
ーー逃がすな! あんな邪悪な男を生かしておくな!
耳目にこびりつく狂気の殺意。謂われ無き罪で殺されかけた理不尽な一幕。先刻の事件は死ぬまで忘れられそうにない。一体僕の何を知って毛嫌いするというのか。分かり合おうとすらせず、感情の赴くままに誰かを憎むだなんて、短絡的すぎやしないか。やり場の無い怒りが歩みを更に速めていく。
見覚えのある泉は素通りした。ここは便利だけど町に近すぎる。当ては無いけども、人の目が届かない場所に身を潜めたかった。
「待てよ。この子を巻き込んでしまって良いもんかな……」
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