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春は
終わった。
これで、よかったんだ。
道路で女性が死んだという、ごく普通のニュースが流れ、数年後のことだった。
僕はあの日と同じように立っていた。
ツクリモノの右手をみて、目を細める。
あの時、君と僕が出会った時。
また会ったね、という前に。
何も皮肉すらもこめず、
「また会えてよかった」
って、言えたらどれだけよかっただろう。
きっと世の中のほとんどの人が知らない。
好きな人ができて、好きな人に自由を奪われて、
恨むより前に、少しだけ嬉しかった僕のことなんて。
それでもよかった。
それでよかった。
僕の目の前にはいつか人が命を落とした道路。
あの日のことが、鮮明によみがえってくる。
ちょっとだけ、泣きそうだった。
でも、笑うことにした。
だって君も、笑っていたから。
本当は
アリガトウなんて
言わないでほしかったなあ。
最後まで、君を責めきれなかったじゃないか。
白い車が遠くに見えた。
車名前は知らないけれど、ずっと忘れられなかったタイプの車だった。
「また会いに行くから」
君に最後に言った約束を、今から果たすよ。
片手に瑠璃唐草をもって
笑って
僕は
道路に散った。
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