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手紙の最後数行は、字が震えていて、少し滲んでいた。
きっと私が来なかった事に心底絶望し、哀しくて悔しくて、泣きながら手紙を書いたのだろうと、そう思っていると看守に肩を軽く叩かれる。
振り向くと、白い絹のハンカチを優しく差し出される。
そうか、息子を見捨ててしまった事に後悔して、泣いているのは私の方か。
息子の亡骸へと改めて向き直り、何度も何度も手紙を読み直す。
そうして初めて溢れてくる感情、その時になってようやく、私はかけがえのない、命よりも大事な息子を亡くしたのだと実感する事が出来た。
今はもう、冷たくなった息子に縋りつき、恥も外聞もなく嗚咽を上げる。
息子がもたらした最期の気持ちは、私の内に、とても重たく冷たいものをもたらした。
皮肉な事に、取り返しのつかない今になって初めて、息子と親子であるのだと確信出来たのだ。
命を懸けた一通の手紙が、私と息子を繋ぐ、唯一のきっかけとなって――。
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