第一章・―息子―

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 私の父親はとても厳格な人で、いつも口癖は「正直に生きろ」という、真っ直ぐなものだった。  お陰で正直且つ厳格な人間に育った私は、結婚して初めて出来た息子に対して、同じ接し方しか出来なかったのだ。  日々厳格に「自分に正直に生きろ」と、ずっとずっと息子に言い聞かせ続けた。  妻は息子を産んだ時に命を落とし、男で一つで育ててきた息子とは、そんな接し方でしか生きられなかった。  そんな矢先、成人も間近だった息子が、人様を手にかけてしまった。  連絡を受けて、急いで警察へと行った際も、矢張りどうして良いのか理解らずに黙っていたのだが、それではいけないと。  何かの拍子で口に上ったのが、「どうしてそんな事をしたのか」という、実に間抜けな問いだった。  息子はそれに心底怒った様子で返したのだ。私があんな育て方しかしなかったから、それが窮屈でむしゃくしゃしてやったのだと。  そして息子はそっぽを向くと、はっきりとした声で私の事を嫌いだと言った。
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