第一章・―息子―

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 それでも足は動き、息子と面会するために今日も刑務所へと通うのだ。  そして幾日、幾年も過ぎ、何にも理解らないままに息子が出所する日が近付いてきた。  このまま迎えに行って、一緒に暮らし始めたところで、これから私はどう息子と付き合っていくべきなのだろうか。  理解らない、矢張り理解らないのだ。  震える身体を抑え、息子を迎えに行こうとしても足は動かず、その日になって、初めて刑務所には行かないで家にこもった。  ――その日の夜、珍しく家に電話があり、私はその主から衝撃的な話を聞かされた。  ……息子が、本来ならば出所する筈の今日、自殺をして亡くなったというのだ。  取るものも取り敢えず刑務所へと急ぎ、遺体安置所に案内された。  そこに横たわる、冷たくなった息子。  目の当たりにしても尚、息子が亡くなったという実感が湧かない。  “哀しい”という感情すら湧かず、どうして良いのか分からずに、ただ息子の前に立つ。  今まで見た事もないような、とても穏やかな表情で、今にも起き上がってきそうだ。
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