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こうして彼女との交際が始まってしばらくは、平凡ながら幸せな時間が流れていった。大きな出来事も起きず、時間だけがゆっくりと流れていく。その時間に起こった出来事の中で、特に印象に残っている出来事が一つある。 それは綺麗な紅葉が散り始め地面を鮮やかな絨毯に変え、木々から青空がのぞけるようになってきたころのことである。 僕と彼女はその日も予定があい一緒に下校していた。その日も秋晴れと言う表現がぴったりな晴天ぶりで、空には雲ひとつ浮かんでいなかった。空気は澄み渡り少し肌寒さを感じさせる風は、これからの冬の訪れを予感させるようであった。 僕が木々の隙間から見える青空を眺めながら歩いていると、突然隣で彼女が今日みたいな秋の空が好きだと呟いた。僕がなぜかと聞くと彼女はよく分からないと微笑んだ。それから大人びた表情をみせ考えこむ。しばらく無言の時間が流れた後に彼女は足元の落ち葉を遊ばせながら答えてくれた。 うまく説明できないけど、秋は空気が澄んでいるから空が高く見えるからかな。少し肌を冷やす風と空が高いことがあって自分が何にも縛られていないように思えるからかな。と大人っぽい表情を浮かべながら答える。それからすぐに最近よく見せる表情に戻り、君と見ているからかもしれないけどと理由を付け加えた。 最初は変なことを言うなと思いもしたが、彼女の言いたいことは少しだけ分かる気もする。今の時期に見える空はいつもより高く感じ、木々の隙間からでも広々と感じられた。それだけでなく空気が澄んでいることもあり、確かに自由であるような錯覚を覚える。とはいえ、さすがにいつもそんなことを考えて過ごしているわけではない。 その一言を聞き、彼女は変わった考えを持っているなと感じたものだ。初めて会ったときに見せた神秘的な表情。いつも一緒にいるときに見せてくれる子供のような笑顔。物事を不思議な感覚で捉える感性。そのすべてが絶妙なバランスを保っていることで、彼女の形容しがたい魅力ができているのだと知ることが出来た気がする。
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