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彼女と秋の空について話してからしばらくの時が経過し、木々からは完全に葉っぱが落ちてしまった。衣を失った木々から、冬の乾燥した風が吹き付け体を凍えさせる。季節は本格的な冬へと変遷していた。 今まで隣にあった温かな空間には今は誰もいない。冬に変わったタイミングに合わせてかは分からないが突然、彼女がいなくなったのである。一日くらい連絡がないことは今まで何度かあったが、一切連絡が取れなくなったのは今回が初めてであった。 家に行ってみたが誰かがいる様子もない。電話をかけてもむなしい機械音が事務的に返ってくるだけであった。完全に彼女の消息が分からなくなってしまったのだ。もちろん事前にしばらくいなくなるということも聞いていない。 自分がなにか悪いことをしたのか。無意識のうちに彼女の気に障ることを言ってしまったのか。僕なりに考えてみたが思いあたる節がなかった。連絡がつかなくなる直前の彼女も特に変化なく、いつも通りに笑っていたと思う。しかしそれは僕が一方的にそう思っていただけなのかもしれない。ただ彼女がいなくなったという事実だけが重くのしかかった。 彼女の消息が絶たれて数日間は現実を受け止めきれず呆然としていた。しかし時間が経つにつれ、彼女がいなくなったという事実を嫌でも実感せざるを得なくなった。一人で歩く通学路。なにを食べても美味しいと笑顔でいう姿。彼女のおススメした本を見るたび、嫌でも彼女の姿が思い浮かんでしまう。少し前までは彼女のことすら知らなかったはずなのに、この短時間でどれだけ彼女に依存していたのだろう。 彼女がいなくなってから一週間が経過した。もちろん彼女はいまだに消息不明である。最近はほぼ毎日二人で歩いていた道も、彼女がいなくなってからは随分と寂しい道だったのだと思うようになってしまった。そこに冬の殺風景な光景が重なり、その思いは何倍にも膨れ上がっていった。 彼女がいなくなってから、自分自身が憔悴していくのがはっきりと分かった。彼女がいるのといないのとでは、世界の見え方がまったく異なるものになっていた。今までは色鮮やかに映っていた景色は色彩を失い、世界が灰色に染まっているように思えた。それを単純に冬のわびしい景色のせいにすることもできただろう。しかし僕にはとてもそうとは思えなかった。僕の中の精神の軸がぽっかり抜けた感覚は確かな感覚として残っているのだ。
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