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僕はできるだけ彼女のことを考えないようにした。そうすることでいくらか、気持ちをごまかすことができると考えたのだ。しかし彼女と一緒にいた場所を通るたびに彼女のことが浮かんでしまい、何にも集中できない日々が続いた。一目でいいから彼女に会いたかった。一言だけでいいから、彼女と言葉を交わしたかった。彼女の温かい陽だまりのような笑顔を見たかった。 いくら願ってもその願いはもう叶わないのだろう。これだけ経っても何も連絡がつかないのだ。僕の中では半ば諦めの気持ちが大きくなっていった。しかし彼女がいなくなったのが突然であったように、この状況にも突然終わりがやってきた。 彼女がいなくなってから十日が経った。その晩、家に来客があり玄関を開けると、そこに彼女が立っていたのだ。訳が分からず完全に静止していると、彼女はいつもの子供っぽい笑みで微笑みかけてくる。なんだか鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていたらしい。 それから彼女は、しばらく連絡が取れなかった理由を教えてくれた。祖父が急に亡くなってしまい、北海道に行かなくてはならなくなったこと。そのことを連絡しようとしたとき、タイミング悪く携帯が壊れてしまったこと。手紙を書こうにも住所が分からないこと。それで連絡を取ることを諦めた彼女は、こっちに戻ってきてから真っ先に僕の家まで来てくれたこと。 大まかな理由はこういうものだった。実際にはもっと丁寧に理由を説明してくれていた。しかし状況の整理が追い付かずほとんど情報が頭に入ってこなかった。でも彼女が目の前にいるということを実感すると、たまらなく安心したのと泣きたくなった。 僕は周りの目を気にせず彼女に抱き着いた。自分からこんなことをするのは恥ずかしかったが、ここで捕まえておかないとまた遠くに行ってしまいそうな気がしたのだ。それから僕もこの十日間のことを切れ切れに話した。連絡が一切取れなくなって不安になったこと。家まで行っても誰もいないこと。できる限り彼女のことを忘れようとしたがうまくいかなかったこと。どれだけ彼女がいなくて寂しかったか。普段ではありえないほどに、直球に自分の思いを伝えた。
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