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これが僕が彼女とあった初めての日であった。 それから幾日かの時間が経過した。僕は初めて彼女を見た日から、毎日彼女がいないかを目で追っていた。特に目ざましい変化はなかった。この幾日かの経過で、何度か彼女を見かける機会はあったが声をかけることはできなかった。相変わらず勇気は沸かなかったし、ただ見ているだけで満足できる日々が続いた。 彼女を毎回見かけるわけではなかった。週に二回か三回ほど不定期なタイミングで会えるだけであった。彼女はいつもシンプルな恰好に不思議な雰囲気を纏っているから見つけることは容易だった。またその雰囲気のせいかは分からないが、彼女はいつも一人でいた。もしかしたらその神々しさは僕だけが感じているのでなく周りの人全員に伝播しているのかもしれない。 特に大きな変化があるわけでなく、また幾日かの時が経過していた。桜は完全に舞い散り、季節は夏に向かって新緑へと移り変わろうとしている。そんな時期に、僕と彼女の関係に変化が訪れた。 いつも通り彼女は僕の前を歩き、僕は彼女のことを後ろから眺めていた。今日はいつもより荷物が少ないのか、小さめのハンドバックだけを持ち歩いていた。そのハンドバックから文庫本が顔を出していたが、それが揺れるたび落ちそうになっているのに彼女は気付いていなかった。それからしばらくして、必然のようにカバンから本は落ちてしまった。そのことにも彼女は気付いている様子はない。 今まで声をかけられずにいたが、そこからの僕の行動は早かった。落ちている本を拾い上げ、急いで彼女の元へと渡しにいく。このときは不思議と下心や照れと言ったものは一切なかった。あのと声をかけると彼女はゆっくりとこちらを振り返る。そこからは一瞬時が止まったかのように思えた。 彼女は後姿から想像できるような綺麗な顔立ちであった。ただ綺麗だというのではなく、不思議と人を魅了するような顔立ちをしていた。おおげさと思われるかもしれないが、本当に同じ世界に生まれ落ちた人のようには見えなかった。僕は言うまでもなく彼女へと恋心を抱いてしまった。
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