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夏
じめじめとした陰鬱な雨が降り続ける梅雨も終わった。梅雨が明けてからは、今までの鬱憤を晴らすかのようにからっと暑い日が続いた。いつもの通学路の木々も完全な新緑に包まれ、うだるような太陽を遮ってくれている。周りからはアブラゼミの大合唱がせわしなく鳴り響いている。
季節が変わっていくのに合わせてか、僕と彼女の関係も少しずつ変化を見せていた。初めて二人で会話をした日から、この道で会ったときは挨拶を交わすようになっていた。始めは挨拶だけだったものが、今では雑談を交わしながら大学に向かうまでに変化をしていた。後ろから眺めていたころから比べると格段に進歩したと言える。
二人で話す内容と言えば主に本について。たまに大学内の講義に関してのこと。それから僕と彼女は互いにこの通学路が好きだったので、この道のことについて。どれも生産性のある有意義なものとは言えなかったが、そんな他愛もない会話がひたすらに楽しかった。
彼女との会話は心地よく、気がつけば僕の楽しみになっていた。心地よいテンポと声音で帰ってくる彼女の声に、みるみる惹かれていくのが自分でもはっきりと分かった。そうなってしまえば、自分の気持ちはどんどんと加速していくのは明白であった。もっと彼女と一緒にいたい。彼女と付き合いたい。僕がその思いに至るにはほとんど時間を要しなかった。
日増しに加速していく思いが臨界点を迎えた時、僕は一つの決心をした。期末テストの最終日に僕らが通う大学の近くの神社で結構な規模の夏祭りが開催されるのだ。それに彼女を誘う。そしてその祭りの終わりに僕の思いを伝える。始めは一緒にいるだけで幸せだと感じていたが、一緒にいるのが常態化するにつれその気持ちが変わっていった。
問題はいつ誘うかであった。いきなり誘っても不自然がられるし、かといって直前に誘ってしまうと別の予定が入ってしまう恐れがある。両方の意見がぶつかりあっていたが、その解決策はあっさり彼女の方から提示された。いつものように学校に一緒に向かっている途中、彼女から祭りがあるということを振ってきたのだ。さらに行きたいけど一緒に行く相手がいないと嘆いていた。
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