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これ以上の好機はないと思い、僕はすかさず彼女を祭りに誘う。勢いで誘ったこともあり、彼女も驚いていた。そしてその顔を見て僕も冷静になった。考えてみれば最近話すようになっただけの男がいきなり祭りに行こうと誘うのも変な話である。なんてことをしてしまったんだと、後悔の念が頭の中で渦巻く。
しかしそんな僕の後悔とは裏腹に、彼女はあっさりと快諾してくれた。むしろ一緒に行ってくれる相手が見つかったと喜んでいた。自分で誘っておいて変な話だが、ここまであっさりうまくいくと思っていなかったので、本人以上に驚いてしまった。彼女はそんな僕の変化を面白そうに眺めていた。
それからの時間はあっという間に過ぎ去り、とうとう祭りの日がやってきた。その間に結果が芳しくないテストもあったが、今はそんなこと大した問題ではなかった。その日は互いに遅くまでテストがあったこともあり、大学の前で待ち合わせてそこから直接向かうことになっていた。本音を言ってしまえば、彼女の浴衣姿を見たかったのでだがそれは高望みというやつなのだろう。一緒に行けるだけでも十分に幸せであった。
彼女を待っている間、僕は幸福感と緊張で落ち着きなく待っていたのを覚えている。しかし時間になっても彼女はやってこなかった。始めは集合時間を間違えたかと時計を見なおしてみたが間違ってはいない。連絡を取ろうとするも彼女の連絡先が分からず途方に暮れていた。
彼女が来ない不安からさっき以上にそわそわしていたら、いきなり後ろからわっと可愛らしい脅かしが入る。予想外の出来事に慌てて振り返ると彼女が申し訳なさそうに笑顔を浮かべている。テストが思ったより長引いたらしくそのため遅くなったらしい。そう説明する彼女の息は若干切れ気味であった。それだけ急いで来てくれた事実が、僕にはたまらなく嬉しかった。
それから二人で祭りの会場へと向かう。いつもは大学に向かうまでの道でしか会えない彼女と、二人で祭りに向かっているのが新鮮だったのをよく覚えている。まるで修学旅行の夜のようなテンションで、二人で他愛もない話をしていた。
祭りの会場に近づくにつれ人の数も増えていき、そのまま一つの流れのように形作られていく。割と小規模な祭りだと思っていたが、思っていた以上に人が集まっていることに驚いた。祭りに到着するとお馴染みの屋台が列をなして僕たちを迎えてくれる。
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