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夏の終わりとともに蝉の合唱は息を潜め、それに呼応するように空の高さは高くなっていった。からっとした暑さも抜けてきて秋の訪れを肌で感じる。いつもの通学路も、緑色からカラフルな紅葉へと衣替えをし、秋の訪れを歓喜している。 あの祭りの日から彼女との交際が始まり、その関係は順調に続いている。彼女とはどこか遠くに出かかるということはなかった。互いに予定が合わないこともあり、関係上では大きな変化はなかった。 変わったことと言えば大学の始業時間が同じ時間のときは毎回一緒に登校するようになったということである。傍から見たら大きな変化ではないのかもしれないが、僕からしたら大きな変化であった。彼女と学校に通うことを公認されたような気がして、それだけで僕は幸せだった。 他にも時間が合えば学内で一緒に昼食を食べたり、放課後は一緒に帰ったり図書館で好きな本をおススメしあったりもした。どれも特別なことではないのかもしれないが、僕にはそのすべてが幸福で新鮮なものに感じられた。我ながら低燃費な幸せだなと思う。しかし彼女にそのことを話すと、そういった幸せの感じ方は本当に幸せな証拠だと微笑んだ。彼女にそう言われると、それが世界の真理のように思えるから不思議である。 どこか遠くに行くことがない僕たちは代わりに多くのことを話した。好きな本の話や学校の話、家の話や家族の話。多くは生産性のあるものと言えなかったが彼女はその話題一つ一つを心の底から楽しんでいた。そしてその笑顔を見ている僕も、気がつけば笑顔になっていた。 初めて彼女と出会ったとき、彼女はまるで他の人間とはかけ離れた存在のように思えたが、一緒にいる時間が増えるにつれて、それが間違えだと気付くことができた。一緒にいるときの彼女はくだらない冗談を何度もいい僕を困らせ、そわそわ落ち着きがなく目についたものすべてに関心を持った。 彼女に意外と子供っぽいことを伝えると、よく友達にも言われると満面の笑みで言い返される。どうやら僕が感じている彼女のギャップを周りの人も同じように思っているようだ。僕は彼女の屈託ない笑顔を見てまた魅力を発見できたと心の底から喜ぶ。それだけ彼女の魅力に参っているのだと改めて実感させられる。
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