第一章 薬の男

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 私は椅子に座っていた。 目の前には、書類が乱雑に散らばった机。 その上に、小さな白いカプセルが大量に入っている瓶が置いてある。  暑いのか、恐怖からか、額には汗が浮かぶ。 右手を使ってネクタイを緩めると、肺へ流れ込む空気の量が増えた。  この薬を飲めば、眠るように死ねるだろう。 躍動を続けてきた心臓も、新鮮な空気を入れ替える肺も働くことをやめるだろう。  瓶の蓋を開ける。 両手から溢れそうになる薬。 吐き戻さないよう、一粒一粒ゆっくりと噛み砕いていった。
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