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やっぱり武田の機嫌は良くなく、次の日も悶々と過ごしていた。
自分と付き合っていた時、相良はどうしていただろう。泣いていることが多かったように思う、抱いても抱いても、いいのは自分だけだったろうか。相良の痴態を思い出すと今でも興奮してしまいそうだったが、抑えながら思い出してみる。
相良も、感じていたはずだ。でも、酷く寂しそうだった。快感はあったはずだ。一体何が違うのだろう。大学の中庭で思いに耽る。
大体、別れた原因も武田には思い出せないのだ。
相良は確かに、自分との関係は満足していなかったように思う。
我儘で、自分を振り回して…苦しかったのは、自分も同じだった。あの時を思うと辛いことしか思い出せない。それでもなお、相良に執着してしまう自分が、情けなく思えた。
アイマスクをして、中庭の木漏れ日の芝生に寝転ぶ。
そよそよと風の吹く音が沖田の耳を撫でる。
眠りに誘われて、武田は夢を見るー、そう。それは相良と付き合っている時の夢―だった。
『篤志、篤志』
『早く…早くして』
『だめですって、相良さん、それは』
『してほしいんだ』
『俺にはできない…』
「――っ」
絶望して目が醒めた。
自分は相良に応えられない、そう思っている夢だった。夢の中の生暖かい感触がリアルで、武田は自分が冷や汗をかいていることに気付いた。
その夢は、真っ赤に染まっていた。
「冗談じゃない。夢見が悪すぎだ」
立ち上がって、芝の残骸を手で払う。デニムの後ろ側にそれは多量についていた。厄介だ。そう思う。
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