32人が本棚に入れています
本棚に追加
喫煙所で会ったその茶髪のことが忘れられなくて、武田は苛々としていた。
相良になれなれしくしていることももちろんだが、煙草まで管理するなんて―。自分と付き合っている時は、相良はわがままで、先輩なのに子供っぽくて、そこが可愛くもあったのだ。
知らない男の傍にいることで、相良が変わってしまっているかもしれない、そのことが不快でしょうがなかった。
大学の講義を受けても、ずっとそのもやもやが消えずに心に残っていた。
隣に座った同期の山崎が声を掛けて来る。山崎は武田と同じ高校で、相良の事ももちろん知っているという貴重な人物だった。
「あーあ。終わりましたね。何か、食いにでも行きませんか武田さん」
コイツはどういう訳か、ずっと武田に敬語で話してくる。しかも良くなついて来るので、相良と別れてからは自然とつるむことが多くなっていた。
「ああーそうだな、ラーメンかな」
「いいですね」
男二人、気軽につるんでキャンパスを出る。
大学のそばにあるラーメン屋、「長谷川」はいつも混んでいるのだが、それでも大学の生徒にサービスをしてくれることがいい。とても人気の店だった。
のれんを上げて、中に入る。
混んではいたが、丁度カウンターが二席開いていたので、山崎と座り込み、ラーメンとチャーハンを二つ注文した。
元気のいい店員の声を聞いて、冷たい水を飲みながら山崎と二人、一息ついた。
「そういえば見ました?武田さん。相良さん、凄く楽しそうですよね」
「ああ、何だろうな、今日会ったよ」
「隣にいつも、あの茶髪の人がいるって―」
武田は胸糞悪く、チッ、と舌打ちした。
「あらら。心中穏やかじゃないですね」
「そりゃあな。一応、まだ、俺は―」
「そうでしたか。まだ相良さんに未練が?」
軽く訊かれて機嫌を悪くしたのか、武田はもう一度舌打ちした。
山崎は自分と相良の関係を知っていた。
でもこいつが一番客観的にものを見れるだろう、自分はもう、相良の事となると途端、頭に血が上ってしまうのだ、そう思って武田は気を取り直す。
「で?茶髪が何だって」
「あの人、どうやら相良さんと―」
その先は聞きたくなかったが、甘んじて受けた。
へえ、とだけ、武田は言った。なるほど。道理で。自分の時はヘビースモーカーだった相良が、茶髪の所為で変わったと聞くと武田の心は複雑だった。
最初のコメントを投稿しよう!