闇と嘘

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喫煙所で会ったその茶髪のことが忘れられなくて、武田は苛々としていた。 相良になれなれしくしていることももちろんだが、煙草まで管理するなんて―。自分と付き合っている時は、相良はわがままで、先輩なのに子供っぽくて、そこが可愛くもあったのだ。 知らない男の傍にいることで、相良が変わってしまっているかもしれない、そのことが不快でしょうがなかった。 大学の講義を受けても、ずっとそのもやもやが消えずに心に残っていた。 隣に座った同期の山崎が声を掛けて来る。山崎は武田と同じ高校で、相良の事ももちろん知っているという貴重な人物だった。 「あーあ。終わりましたね。何か、食いにでも行きませんか武田さん」 コイツはどういう訳か、ずっと武田に敬語で話してくる。しかも良くなついて来るので、相良と別れてからは自然とつるむことが多くなっていた。 「ああーそうだな、ラーメンかな」 「いいですね」 男二人、気軽につるんでキャンパスを出る。 大学のそばにあるラーメン屋、「長谷川」はいつも混んでいるのだが、それでも大学の生徒にサービスをしてくれることがいい。とても人気の店だった。 のれんを上げて、中に入る。 混んではいたが、丁度カウンターが二席開いていたので、山崎と座り込み、ラーメンとチャーハンを二つ注文した。 元気のいい店員の声を聞いて、冷たい水を飲みながら山崎と二人、一息ついた。 「そういえば見ました?武田さん。相良さん、凄く楽しそうですよね」 「ああ、何だろうな、今日会ったよ」 「隣にいつも、あの茶髪の人がいるって―」 武田は胸糞悪く、チッ、と舌打ちした。 「あらら。心中穏やかじゃないですね」 「そりゃあな。一応、まだ、俺は―」 「そうでしたか。まだ相良さんに未練が?」 軽く訊かれて機嫌を悪くしたのか、武田はもう一度舌打ちした。 山崎は自分と相良の関係を知っていた。 でもこいつが一番客観的にものを見れるだろう、自分はもう、相良の事となると途端、頭に血が上ってしまうのだ、そう思って武田は気を取り直す。 「で?茶髪が何だって」 「あの人、どうやら相良さんと―」 その先は聞きたくなかったが、甘んじて受けた。 へえ、とだけ、武田は言った。なるほど。道理で。自分の時はヘビースモーカーだった相良が、茶髪の所為で変わったと聞くと武田の心は複雑だった。
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