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まだ明るい時間帯のスクランブル交差点。
街頭テレビの大型スクリーンに、ワイドショーのライブ映像が映し出される。
「また、芸能人の不倫ネタかぁ」
まとめ買いをした日用品を詰め込んだマザーズリュックを背負った人見佳乃は、息子の春生を乗せたベビーカーを押す手を休め、辟易したようにつぶやいた。
自身も不倫の末に子どもを身ごもり、出産まで遂げてしまったのだから決して他人を責められる立場ではないことは重々承知している。
「もう、取り上げなきゃいいのに…」
力なくため息をついた後、スクリーンは地域限定放送のバラエティ番組に切り替わった。
『【ママタイム・カフェ】の時間になりました。こんにちは~!』
ローカル局のアナウンサーが、元気よくお決まりの挨拶をする。
「もう、こんな時間? 急いで帰らなきゃ…」
再びハンドルを握り直し、このところ一段と重くなった春生を乗せたベビーカーを再び押し進めようとしたその時。
『今日は、皆さんに新しい仲間を紹介しま~す! アシスタントの…』
「え、あ…」
佳乃より先に、春生が声を上げた。
「りんねー!」
『天崎倫音と申します。よろしくお願いいたします』
「天崎さん!?」
倫音の美しい顔が、大画面いっぱいに映し出されていた。
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