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素っ気ない返事を落胆したと捉えたのか、取り繕うように末永は付け加えた。
「まぁ、君みたいな規格外の美女が目の前に現れれば、どう出るかは分からないね。一度はお手合わせ願いたいと下心を持つのが普通の男だろうさ」
「その時は、期待通りの仕事ができるかどうか分かりませんが」
「そんな、女の君が気張ることはないだろう。普段通りにすれば…」
「経験がないので『普段通り』というのが、どういうことか分かりかねますが。肝に銘じます」
あっさりと席を立つと、いつものように丁寧にお辞儀して立ち去ろうとする倫音を末永は呼び止めた。
「え、ちょ…待って、天崎さん!」
「何ですか?」
「今、何て言った?」
「『肝に銘じます』」
「そ、その前の…」
「『経験がないので』」
「え、経験がないって、君、その…まさか…」
妖艶な眼差しを向けながら、倫音は毅然と言い切った。
「一度も男性と寝たことがない、という意味です」
冗談だろ?
そう茶化しかけた末永だが、早足の倫音は既に食堂の出口へと歩みを進めていた。
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